2021年9月19日日曜日

天理教学概論2 第1回

 

天理教「学」と歴史教学・実践教学



 皆さん。こんにちは。天理教学概論2を担当する、宗教学科の岡田正彦です。この授業は宗教学科の1年次生を対象にした必修授業です。春学期に続いて、宗教学科の皆さんがこれから4年間かけて学んでいく「天理教学」という学問の基本的な姿勢と概要について紹介し、この学問の可能性について一緒に考えていきます。よろしくお願いします。

 それでは、まずこの講義の概要を読んでみましょう。 


 人はなぜこの世界に生まれ、何のために生きているのか。生命はいつ、どこで、どのように生じたのか。「死」とは如何なるものか。宇宙の果てはどこにあるのか。普段は意識していませんが、私たちはつねに/すでにこうした「こたえられない問い」とともに生きています。

 太古から人間は、こうした問いについて「考え」、時には直感的にこたえを「表し」てきました。これらが哲学や芸術の営みです。また、宗教的な偉人たちはこうした問いに対して、超越的な立場からこたえを「示し」てきました。天理教を信仰する人々には、教祖を通して開示された親神の「教え」があります。

 人類に与えられた究極の「こたえ」である、この「教え」を学び、探求し、実践し、真実の「こたえ」とともに生きることの意味を求め続けていくことが、天理教学の課題です。

*天理教学概論2では、とくに天理教の歴史と現状(歴史教学と実践教学)について考えます。


天理教「学」とは・・・何でしたか

 春学期の授業では、「天理教学」の全体的なイメージを学ぶとともに、天理教学の研究領域のなかで、とくに「原典学」「組織教学/教義学」について学びました。これまでの研究の一端について、少し紹介した程度でしたが、内容は覚えているでしょうか。

 大事なポイントの一つは、この授業は「天理教」の授業ではなく、「天理教の授業だということでした。

 教祖の残した言葉やテキスト(原典)をもとに、天理教の教えの内容を紹介したり、天理教の歴史や活動を紹介したりするのではなく、これらのテーマについて、これまで蓄積されてきた研究の成果を紹介し、これからの研究の可能性について考えることを目的としています。

 天理教学も学問である以上、その研究の成果や主張する命題の価値、客観的・合理的に判断されなくてはいけませんし、研究の根拠となる資料や史料は実証的に検証される必要があります。

 とはいえ、天理教の教祖の言葉は「神の言葉」であるかどうか、といった信仰上の問いに客観的・実証的に答えることはできません。教祖の言葉が神の言葉であるのかどうか、これを判断できるのは信仰だけです。「信じる」という主体的・主観的な営みのみが、教祖の神性を認めて、その言葉を真理であると判断する基準になり得ます。




 しかし、教祖の書き残したテキストを筆跡鑑定したり、歴史的な年代を推定したり、使われている用語の意味テキストの構成などについて考察する場合には、その正誤の判断は、客観的・合理的・実証的になされる必要があります。

 大和の方言では「豊作」を意味する「よのなか」という言葉を解釈する際に、方言の意味をまったく無視して「世の中」と一方的に解釈したり、まったく別人の筆跡で書かれたテキストを「おふでさき」の一部と見なすような行為は、やはり慎むべきでしょう。表紙に執筆年が書き記されている「おふでさき」の執筆年代は、原本の記載を無視して決定することはできません。

 また、根拠の実証性よりは、議論の客観性や論理的な整合性を重視する組織教学/教義学においても、極端に偏った主張天理教の人間観や世界観として表明するようなことがあれば、これは大きな社会問題になる可能性があります。とくに現代社会に固有の課題に言及する場合には、慎重に丁寧な議論(熟議)を積み重ねる姿勢が必要不可欠です。

 ネット上で発言した内容が、すぐに炎上して大きな社会問題になる現状を考えれば、つねに公正で客観的な立場から発言する姿勢の大切さは、皆さんにも理解できるのではないでしょうか。



 八百屋の店先に並んだリンゴの味は、実際に食べてみないと分かりません。美味しいか美味しくないか、という判断は主観的なものです。しかし、赤いリンゴと黄色いリンゴの産地の違いや歴史的な背景を説明することは、さまざまな知識を身につけることによって可能になります。

 糖度計を使って、リンゴの味を客観的なデータで示すことも可能でしょう。もちろん、「味は食べてみれば分かる」と言って、リンゴの皮をむいて試食させてくれる八百屋さんも魅力的ですが、宗教学科で学ぶ人たちには、データや客観的な知識を駆使して「天理教」について説明するスキルを身につけてもらいたい、と思っています。


天理教学の研究領域について

 それでは、春学期に紹介した「天理教学の研究領域」をもう一度確認しましょう。




 秋学期は、主に後半の③歴史教学④実践教学の諸分野について学んでいきます。春学期と同じように、基礎的な理論や代表的な研究成果を紹介する程度になりますが、来年からそれぞれの分野について、より深く学んでいくことになります。

 2年次以降に受講する授業の準備のような講義になりますので、基本的な概念歴史的人物の名前などは、しっかり覚えるようにしてください。また、紹介した文献などは、出来るだけ自ら手に取ってみてください。この授業で文献を紹介しているのは、皆さんに自分で読んでもらうためであり、この授業で紹介した内容を学ぶだけではあまり意味がありません。

 また、「補助教学」に分類した学問分野は、宗教学科の専門科目として学ぶさまざまな学問の内容とほぼ一致しています。せめて簡単な概要くらいは、この授業のなかで紹介しておきたいと思っています。

 秋学期は、次のような【授業計画】にもとづいて、講義を行なう予定です。

 1.天理教学の研究領域と歴史教学・実践教学
 2.教祖伝①―歴史的事実と信仰的真実―
 3.教祖伝②―史実・信仰・逸話― 
 4.天理教史―教祖伝と天理教史― 
 5.教会史と伝道史
  ―教祖を慕う人々の歩み― 
 6.教理史と思想史
  ―思想史としての教理研究史― 
 7.救済史―人類史の更新― 
 8.「つとめ」の実践 
  ―世界の運命を転換する祈り―
 9.「さづけ」の実践 
  ―「わたし」の運命を変える祈り― 
 10.教会論 
  ―現代社会における教会と未来の可能性―
 11.布教伝道 
  ―陽気ぐらしの世界を実現する営み―
 12.社会活動 ―道と社会の接続―
 13.補助教学とは ―宗教研究と天理教学―
 14.天理教学と天理教研究
  ―外からの視座と内からの視座―
 15.まとめ

 それでは、次回はまず「歴史教学」の分野の「教祖伝」から紹介をはじめましょう。「信仰と学問」の関連性を意識しながら、これまで蓄積されてきた教祖伝研究の意義について考えます。


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